「風弥という名前なだけに、飄々とした奴だわね。良い奴なんだか、嫌な奴なんだか。でも、よいっちゃんにまで、手を出すかもしれない。そんなことは、あたしが許さないんだから」

気に入った者であれば、男だろうが女だろうが、色恋の対象になるらしい風弥に、藍は鼻息荒く拳を握った。
与一は苦笑いしながら、藍の小さな拳を軽く握る。

「手強い相手ではありますが。俺より、自分のことを心配してくださいよ。あいつ、藍さんに惚れてるでしょう」

「あいつが惚れてるのは、あたしじゃなくて、‘らんまる’よ」

「同じ事です」

握った手に力を入れ、与一は藍を引き寄せた。
己の腕の中に、藍の小さな身体が、すっぽりと収まる。

そのまま藍を抱きしめ、与一はそっと囁いた。

「藍さんは、俺が守ります。他の男なんかに、渡しません」

一瞬だけ、藍の身体が強張った。
珍しく、少し震えている藍は、何故か泣いているようだ。

が、そっと与一の背中に腕を回すと、ぎゅ、と抱きついてきた。

「よいっちゃん、大好き」

それは今まで、何度となく言ってきた言葉。
だが、やっと藍は、自分の気持ちを理解した。





***終わり***