「そりゃ、藍さんが怪我したり、気を失っても、俺が運べばいいだけですけど、藍さんに俺は運べないでしょう? 昔からそう育てられたんだし、俺にもその覚悟は、ありますよ」

「よいっちゃんに、その覚悟があっても、あたしにはないの!」

藍は乱暴に与一の肩を掴むと、顔を近づけて喚いた。

「よいっちゃんは、特別よ。っていっても、まだあたしにも、どう特別なのか、わからない。ただ、今まで接してきた人間に、これほど執着したことはないの。他人の危機に、考えるより先に行動するなんて、初めてだわ。自覚したのは、ほんとに最近なんだけど」

そう言って、藍は千秋屋での、とにかく与一に会いたくなったことや、与一が竜胆丸と戦っていたときの、風弥との会話のことを話した。
話しているうちに、なんだかお互い恥ずかしくなってきたため、ついでに藍は、河原での一連の事の顛末も話す。

「はぁ。あの化け猫が、次の北御所で、お福が斎王ね。結果的には、拍子抜けというか、むしろ面白かったというのか。しかし、あの男が、わざわざ俺を運ぶとはね」

さりげなく話題を移し、与一は顎をさすりつつ呟いた。
結局いまだに裸のまま、布団の上に座っている。