「よいっちゃん、大丈夫?」

項垂れる与一を、藍が心配そうに覗き込む。

目の前の藍をいくら見ても、最早自分よりも年上には見えない。
が、脇腹の手術のときといい、今といい、結局自分は、この小さな少女に頼っているのだ。
今目の前の藍からほのかに薫る甘い香りは、紛うことなく、寒くてどうしようもなかったときに、救ってくれたものの匂いだ。

脇腹を縫ってもらっているときに掴んでいた藍の足首は、たまたまそこにあったから、と思っていたが、何となく藍の言うように、自分が他でもない藍を求めた結果なのかもしれない。
ここ一番のときに自分が求めるのは、藍なのではないかと、本気で思うのだ。

何故なら、これほど安心できるのは、藍の、この匂いなのだから。

「・・・・・・情けないですね。大の男が・・・・・・」

恥ずかしさを紛らわすように、大きく息をついた与一に、藍はいつになく真剣な表情のまま言った。

「あたしは、よいっちゃんが最終的に求めるのがあたしだっていうのは、この上なく嬉しいことだけど」

まるで与一の心を読んだような言葉の上に、いつものように軽い言い方でないため、少し驚いて、与一は藍を見つめた。

「・・・・・・あたしは、よいっちゃんの、お母さんだものね」

ぽつりと呟いた藍に、与一は思わず吹き出した。