さて。

たまの起こしたつむじ風に飛ばされた藍と与一は、気がついたときには、見覚えのある狭い路地に蹲っていた。

素早く辺りを見渡した藍は、ぴょこんと飛び起きて、傍の引き戸に飛びついた。
少し開けるのにコツのいるこの引き戸は、藍と与一の家の玄関だ。

「うもぅ。どうせなら、部屋の中まで送ってくれればいいのに」

ぶつぶつ言いながら、複雑な鍵を器用に外し、少しだけ戸を開ける。
飛ばされた先が、表の大通りでなかっただけでも有り難いのだが、藍は思わず文句を垂れた。

多少でも意識があれば、与一は何とかして、藍の負担にならないよう、自分で歩く努力をしてくれるが、今は完全に意識がないのだ。
ただでさえ意識のない人間は重いのに、与一は藍より、軽く頭一つ分ほども大きな男だ。

---まぁ、よいっちゃんには無理して欲しくないから、下手に意識があるほうが、ややこしいかもだけどさ---

少し戸を開けたまま、藍は与一の傍まで駆け戻った。
しゃがみ込み、下半身に力を入れると、河原でやったように、与一の腕を肩に回して、よろよろと立ち上がる。

家の前の路地は、人が一人、通れる程度の細さだ。
元々この地は色町だし、昼過ぎなど、表もあまり人通りはない。
町の外れの、まして路地の奥でなど、何をしていても、ばれることはない。

藍はよろよろと、思い切り前屈みになって、背中全体で与一を支えつつ、反対側の壁にもたれるように、ずるずると家に向かった。