「旦那さん。こっちの根付けは、いくらだえ」

頃合いを見計らい、少し離れたところで、与一が声をかける。
主人が与一のほうへ視線を転じた瞬間、藍は持っていた簪を、指の上でくるくるっと回した。
鏡に映った彼女の口角が、僅かに上がる。

「へいへい。どれです?」

主人がにこにこと手をさすりつつ、与一のほうへ歩み寄り、彼の手元を覗き込んだ。

「あらぁ。よいっちゃんたら、それなら、そっちのほうが似合うわよぅ」

主人の後ろから、藤の簪を髪に挿した藍が、口を挟んだ。

「ほら。これ、どお? 似合う?」

にこりと微笑んで小首を傾げる仕草に、簪の藤が、しゃらりと鳴った。
主人が、ぼぅっと見惚れる。