「お前さんはの、稀なる比和の人物なのじゃよ。陰陽五行でいうところの、同じ気が重なった結果が良ければますます良く、悪ければますます悪くなるという、稀有な気じゃ。お前さんは、今まで南のほうの寺におったのじゃろ? お前さんの意思に関わらずじゃが、お前さんの相手をしていたのが、かの団三郎狸よ。狐が女子(おなご)に化けるように、狸は男に、とりわけ僧に化ける。男だから陽の気じゃし、団三郎ほどの妖力を持った妖怪の気を取り込んできたお前さんは、強い陽の気を宿している。普通の人間なら、同じ目に遭ってもどうということはないが、比和の人物に長年陽の気を送り込めば、力はどんどん強くなる。ちゃちい妖(あやかし)など、簡単に蹴散らせる程の力が、お主にはすでに備わっているのじゃよ」

辰巳が、唇を引き結ぶ。
忌まわしい過去を暴露され、さらにその相手が、実は物の怪だったなどということは、確かに衝撃だろう。

「まぁまぁ。お前さんが陽の気を取り込んだお陰で、お前さんの行くところ、景気が良くなるのだから、良かったではないか。下駄屋だって、お前さんが来てから、随分と大きくなったのじゃろ。陽の気は、人をも惹きつける力があるからの」

はっと、辰巳が顔を上げた。

「ま、まさか。身体に陽の気を溜めているから、どいつもこいつも俺に言い寄ってくるのか。俺はてっきり、稚児の経験があるから、そういう奴らを惹きつけてしまう何かがあるんだと、諦めていたのに・・・・・・」

「本来陽の気は、明るく良いものじゃが、お主はちと強すぎるんじゃな。それに、悪いことに周りには男ばかり。誰彼かまわず惹きつけておるうちに、誰もがそっちの道に踏み込んでしまったのじゃろ」