「まぁ、この京処じゃ、人外のものなんて、珍しくもないけど」

呟いた藍を、薄目を開けた与一が見つめた。
視線に気づいた藍が、がばっと与一の顔を覗き込む。

「よいっちゃんっ! 大丈夫?」

身体を起こそうとした与一だが、少し動いただけで、眉間に深く皺が寄る。

「いいから。とりあえずは、もう大丈夫よ。寝てて」

藍がちらりと風弥を見て、与一を押し留める。
風弥は軽く肩を竦めた。
藍の言うとおり、最早攻撃する気はないらしい。
もっとも、この男が真面目に誰かからの命令に従う気があったのかは、はなはだ疑問なのだが。

「その男子(おのこ)もそうじゃが、お主も妙な気を持っておるの。・・・・・・まぁ良い。だからこそ、迎えの者として、お主を選んだのであろう」

与一と藍を見ながら言ったたまに、藍は少しだけ口角を上げた。
たまを膝に乗せた辰巳が、混乱したように頭を掻きむしる。

「一体、どういうことなんだ。だいたい、何で俺のような者が、そんな偉いお人に目を付けられる? 何で皆が皆、俺を狙うんだ。寺からの追っ手だって、異常なほどしつこいし。稚児が逃げるのなんざ、そう珍しくもないだろうに」

たまは、そんな辰巳を見上げ、労るように身体を擦りつけた。