そうこうしているうちに、市を出、京処からも外れた河原に出た。

「よっこいせっと」

風弥が与一を肩から下ろしている間に、藍は川の水に、髪を括っていた紅梅の布を浸した。
辰巳がたまを下ろすと、たまはそろそろと川に近づき、水を飲む。

「それで? あのたまが北の主神で、東にも同じような主神がいるってこと?」

与一の傷の手当てをしながら、藍は横に座った風弥に問うた。

「って話だな。そもそも、北御所北御所というが、実際‘北御所様’とお会いした奴は、いるのかい?」

「だって、皇族でしょ。そうそうお会いできる人じゃ、ないんじゃないの?」

藍の言葉に、風弥は頷いた。

「そうだな。まぁそうなんだが。北御所のほうは、屋敷も普通の建物だしな。けどな、実際は、あの屋敷は斎宮なんだよ」

「斎宮・・・・・・って、えっと、斎王が、神社に赴く前に、籠もる宮?」

「昔はな。今は、その斎宮自体が、直接神を祭っている。神社も兼ねてるというか。だから、北御所ってのは、北の斎宮で、北御所様ってのは、本来はご神体を指すのさ」

「じゃ、東のあの荒れ寺も、斎宮なの?」

風弥の顔に、また苦笑いが浮かんだ。