「どういうことなの?」

「この京処には、北御所と東御所と呼ばれるところがあるな。といっても、東はあまり知られてないかもしれないが。北のほうが、力が強いからな」

「力? 確か東御所って、名ばかりの荒れ寺じゃなかったっけ。そんなところに、何かの力があるの?」

苦笑いした風弥に、黒猫・たまが視線を向けた。

「ほぅ。お主、東の主神を知っておるか」

たまの言葉に、口を開きかけた風弥の目が、不意に鋭くなって、後ろを振り返った。
店の表のほうが騒がしい。
人が踏み込んでくる気配もする。

「おっと。そういやさっき、拳銃ぶっ放したな。どうやら誰かが、通報したようだぜ。このままここにいちゃ、ややこしいことになるな」

「あんた、与力も動かせるんでしょ。何とか抑えられないの?」

話も途中だし、何より重傷の与一を運ぶことは、藍にはできない。
縋るような目を向ける藍に、風弥は困った顔をした。

「与力全部が仲間じゃねぇし、俺自身が与力を動かせるわけじゃねぇ。ここまで踏み込んできた奴らを止めるのは、ちょっと無理だぜ」

風弥の言葉を聞くなり、藍は再び与一の腕を掴み、抱え上げようと、懸命に足を踏ん張った。
だが当然、立ち上がることもできない。

与一はすでに、ほとんど意識が飛んでいるようだ。
無理もない。
まだ出血は、止まっていないのだ。
見える傷に加え、脇腹の傷も怪しい。