「え・・・・・・っとぉ。今の声は・・・・・・この猫?」

風弥の後ろから覗き込む藍に、立ち上がった黒猫は、腕組みするように前足を組んで、ふんぞり返った。

「全く、何てとこ触るのさ。わらわを誰だと思っておる。北御所の、次期主神なんだよっ」

「ね、猫が喋った・・・・・・」

意外なことに、今まで面倒を見ていたであろう辰巳が、一番驚いている。

「辰巳さん。その猫、‘おたま’っていう名前なんだな? で、北御所様からの、預かり物なんだろ?」

与一が、茫然と二本足で立って腕組みしている黒猫を眺めている辰巳に確かめる。
辰巳はまだ驚きから冷めないまま、曖昧に頷いた。

「あ、ああ。確かにこいつは、たまって名だよ。北御所様から、というか、旦那様からというか」

「北と東の主神の伝説は、本物だったってこったな」

呟いた風弥が藍を促し、縁側に腰掛ける。
藍にも座るよう、己の横を示すが、藍はちらりとそちらを見、与一の傍に駆け寄った。

「よいっちゃん、大丈夫? 立てる?」

ざっと見える傷を調べ、己の着物の袖で首の血を拭うと、与一の腕を取って肩に回し、身体を支えながら縁側に向かった。
風弥から少し離れたところに与一を寝かせ、血止め薬を首に塗ると、藍は風弥を振り返った。