藍と風弥が、お互い『げっ』という顔をして、与一を見た。

「拳銃か。本物かよ。そりゃ敵わねぇ」

「よいっちゃん! そんなもん、ぶっ放して・・・・・・」

非難の声を上げた藍が、不意に、はっとして屋敷のほうを振り返った。
エンフィールドの音に反応してか、いきなり二階の辺りから、黒い影が飛び出してくる。

「危ねぇっ!」

意外なことに、風弥が飛びかかってきたものから、藍を庇う。
風弥の肩を掠めて地に降り立ったのは、よく肥えた黒猫だった。

黒猫は、背中の毛を逆立てて、警戒心も露わに、その場にいる人間を威嚇する。

「な、何だ。猫飼ってたの? お福さんの猫かしら」

「そうかもな。首に鈴、ついてるし」

シャッシャッと威嚇する黒猫を、気の抜けた目で眺めながら、藍と風弥が言っていると、すっかり存在を忘れていた縁側の辰巳が、のろのろと身体を起こしながら、ぼんやりと口を開いた。

「ああ、たま。ほら、大丈夫だから、落ち着けって・・・・・・」

辰巳の声に反応した黒猫は、一目散に縁側の辰巳の元に走った。
そのまま辰巳の膝に飛び乗る。

「お前さんの猫かい」

「・・・・・・いや、それより。辰巳さん、その猫、何て?」

興味もないように言う風弥とは違い、与一は片膝をつきながらも、驚いたような顔で、辰巳に言った。
辰巳はまだ意識がはっきりしないのか、ぶんぶんと頭を振ると、顔を上げて辺りを見回した。