与一は、心ここにあらず状態の竜胆丸に、視線を落とした。

「おい。御珠って何だよ。いい加減に教えろ」

相変わらず、刀の切っ先で顎を上げさせる与一を、竜胆丸は濡れた瞳で睨み付ける。

「は。捨てられたくせに、まだあの男に忠誠を誓うのか」

「お、お前のせいで・・・・・・」

馬鹿にしたような与一の言葉に、竜胆丸は低い声で、唸るように呟いた。
そして次の瞬間、いきなり素手で己の顎の下に突きつけられている与一の刀の刃を掴むと、物凄い形相で、与一に突っ込んできた。
その手には、どこから、いつ出したのかも定かでないが、嫌というほど見覚えのある苦無が握られている。

そこまでは認識できても、とても対応できる速さではない。
おまけに刀は、竜胆丸に握られているのだ。
まさに捨て身の竜胆丸は、手に刃が食い込み、血が流れても、刀を離さない。
指が落ちても、気にならないほどの気迫だ。

己の間近に迫った苦無の刃が、不自然に濡れているのに気づいた与一は、ほぼ無意識に苦無を避けると同時に、刀を離し、懐に手を入れた。

ガゥンッと乾いた音が響く。

与一に掴みかかろうとしていた竜胆丸の頭が赤く染まり、どっと倒れる。
霧状の血と脳漿を頭から被って、与一もよろめいた。
右手でエンフィールドを構え、左手で己の右脇腹を押さえる。
苦無を避けたときは、傷を庇う余裕などなかったのだ。