「おいおい。あいつも確かにそれなりだが、俺だって負けてないぜ?」

相変わらず、すぐ傍で死闘を繰り広げる部下二人のことなど忘れたような風弥に、藍はぶんぶんと頭を振った。
弾みで髪を括った桜色の組紐が揺れて、目の端に映る。
与一がくれたものだ。

「悪いけど、あたしには、よいっちゃんだけなの!」

「それはそれは。じゃ、すぐにお前も、こいつと同じところに送り届けてやるよ!」

藍の叫びに応えたのは、風弥ではなく、竜胆丸だった。
見ると、高く脇差しを掲げた竜胆丸が、一瞬だけ藍を見て、口角をつり上げた。
竜胆丸の刀の下では、血まみれの与一が蹲っている。
散々いたぶられたのだろう、先程よりも随分傷が増え、地面にはそこここに血が飛んでいる。

---よいっちゃん、ほぼ丸腰だもの・・・・・・---

いつも首に巻いている繻子の布は、どこかに飛んだのか見あたらないし、腰の紐は、初めに使ってしまった。
小太刀は竜胆丸に弾き飛ばされて、手元にはない。

だが。
藍は与一の右手を見た。
彼の右手は、懐に入っている。
おそらく、エンフィールドを掴んでいるのだ。

しかし、与一は右手を抜かない。
藍の教えもあるが、それ以前に、まだ日の高いこの市で、拳銃をぶっ放すのを、躊躇っているのだ。

「確かにお前も、雑魚とはだんちの差の腕だったよ。けど、やっぱり僕には、敵わないね」

にぃ、と笑うと、竜胆丸は頭上に掲げた脇差しを、一気に与一の頭に落とした。