「・・・・・・あんたは何で、何もしないでいるのよ」

藍が、先程からずっと自分を抱きしめたまま、与一と竜胆丸の様子を眺めている風弥に問う。
二人を眺めている風弥は、ぼんやりしているように見えるが、腕はがっちりと藍を捕らえているし、手下である竜胆丸の腕を見ても、油断はできない人物だ。
藍も下手に動かずに、相手の出方を見る。

「おや。あの男が心配か。そういう仲とも思えないが」

誰もが、藍と与一をいい仲だと思うのに、風弥はそうは思わないようだ。

---やっぱ、こいつの目は誤魔化せない・・・・・・---

でも、と、ちょっと藍は悲しくなった。
いい仲に見えないということは、与一の気持ちが、全く藍にはないということだろうか。

「そんな悲しそうな顔するな。俺まで悲しくなるじゃないか」

このような場面にも関わらず、全然関係ないことを言いながら藍を覗き込む風弥を、藍は睨み付けた。

「よいっちゃんがどう思おうと、よいっちゃんは、あたしのものなんだからっ!」

ぐい、と両手で風弥の胸を押すと、先程までの拘束はどこへやら、呆気ないほどあっさりと、風弥は藍から離れた。

「でも、お前はあいつのものじゃないだろう? お前はそれを望むかもしれんが、あいつはそれを、望むかな?」

藍が離れても慌てることなく、変わらぬ態度で風弥は話を続ける。

「あいつはそれほど、お前に執着しているかな?」

ぐ、と藍は押し黙る。
今まで特に意識しなかったが、自分にとって、一体与一はどういう存在なのだろうか。

何故男に触れられるのは怖気が走るほど嫌なのに、与一なら平気なのか。
それに、ここしばらくの、己の与一に対する想いは、明らかに変だ。

何より、風弥の言葉に傷ついている自分がいる。