「中身はともかく、外見は良いものね。でも、あなたは女子(おなご)に言い寄られても、嬉しくない人でしょ? お蓉さんに上手く近づいたって、本当に許嫁に納まってしまったら、困ったことになるんじゃないの?」

繰り出される苦無を軽くかわしながら、藍は話を続ける。
ただかわしているだけに見せて、ちゃっかり風弥の間合いに入り込んでいた藍は、最後に一気に地を蹴って、風弥にぐっと近づいた。

「あなたは女子に興味のない、衆道者でしょ?」

風弥の耳のすぐ横で囁き、拳を彼のこめかみに打ち込んだ。
藍の小さな拳は、小さいだけに、正確にこめかみに当たる。
風弥の身体が、ぐらりと揺れた。

が、倒れそうになりながらも、風弥は素早く手刀を、藍の脇腹に叩き込む。

「くっ!」

お互いが呟き、ぱっと離れた。
風弥はがくりと片膝をつく。
藍は地面を一回転して、起き上がった。

「俺が、衆道者だと?」

片膝をついたまま、こめかみを押さえる風弥が、藍を睨む。
藍は少し前屈みになって息を整え、嫌悪感むき出しの表情で言った。

「衆道街で、お部屋に入ってもいないうちから、べたべたしてきたくせに、違うとは言わせないわよ。挙げ句、手に・・・・・・」

胸を押さえてぷるぷると震える藍は、今しがた打たれた脇腹が痛むせいなのか、はたまた以前風弥にされた手への接吻を思い出したせいかはわからないが、真っ青だ。