昼近くになってから、与一と藍は、京処に入った。

二人とも、いつも基本的に黒地の着物を着る。
藍のような若い女子(おなご)は、普通は明るい色目の着物を好むものだが、出会ったときから、藍が娘らしい華やかな着物をまとったことはない。

黒地の着物には、わけがあるのだ。

黒であれば、血の色が目立たない。
返り血はもちろん、己が傷を負ったときも、相手に気づかれずに済むというわけだ。

『こっちが怪我してるのがわかると、向こうはいきなり体力が戻ったりするのよ。殺されるほうからしたら、そりゃ必死だから、こっちが血流してたら、勝てるかもっていう希望が見えるのね。だから、たとえどんな酷い傷を負っても、それを悟られちゃ駄目よ』

そういう藍の教えの元、与一も黒地の着物しか着なくなった。
そもそも、藍が身につけているもので、無意味なものなどない。

袴でなく着物なのも、着物の大きな帯のほうが、攻撃を防げるからだ。
髪に挿した簪も、時には凶器になる。

与一は男なので、女物の帯も簪も身につけていないが、着流しの帯と一緒に、両端を若干重くした、名護屋帯のような組紐を巻き、首元には繻子の布を巻いている。
紐状のものがあれば、何かと便利なのだ。

あとは男ならでは、堂々と腰に小太刀を差している。