与一はわざと大きく屋敷を見渡した。
本当に、皆しょっ引かれたのだろうか。
「随分、強引な手を使ったもんだな。ここの裏稼業は、結構有名のようだし、いきなり手入れなんて、不自然じゃないのかい?」
風弥は、ふん、と肩を竦めた。
「構うもんか。有名だからって、許されることじゃない。色事を売り物にするにゃ、それなりの土地に行かにゃならん。間口がないわけじゃないんだからな。健全なふりして、客を食い物にすることは、御法度だぜ。ちょうど折良く、ここの奥方が騒ぎを起こしてくれたしな。俺は、ちょいと奉行所の背中を押してやったまでよ」
「確かにな」
いきなりの手入れが不自然だとはいえ、罪状自体は正当だ。
言われてみれば、今まで奉行所の手が入らなかったほうが、不思議なのかもしれない。
「だが、そういうことの元締めであろうそいつが残ってるのぁ、おかしくねぇか」
与一は顎で辰巳を示した。
風弥は面白そうに口角をつり上げると、足元の辰巳の尻を蹴り上げた。
「元締めだと? お前、何を言っているんだ。こいつには、その気(け)はないぞ」
与一はこの状況を切り抜けることを考えていたため、風弥の言葉の意味がわからなかった。
ややあってから、大きく首を傾げる。
そんな与一に、風弥はじれったそうに、言葉を重ねた。
「こいつは、衆道の者じゃないってんだよ。むしろ、そういう行為を、憎んですらいるような奴だぜ」
ぽかんとしている与一に、ずかずかと近づくと、風弥はぐい、と顔を近づけた。
「本物かどうかも、わからねぇのか。ふふん、可愛いねぇ」
風弥の細められた瞳が至近距離に近づいたと思った瞬間、いきなり口を柔らかいもので塞がれた。
己の口を塞いでいるのが、相手の唇だと理解すると同時に、与一は持っていた小太刀を、思い切り横薙ぎに払った。
本当に、皆しょっ引かれたのだろうか。
「随分、強引な手を使ったもんだな。ここの裏稼業は、結構有名のようだし、いきなり手入れなんて、不自然じゃないのかい?」
風弥は、ふん、と肩を竦めた。
「構うもんか。有名だからって、許されることじゃない。色事を売り物にするにゃ、それなりの土地に行かにゃならん。間口がないわけじゃないんだからな。健全なふりして、客を食い物にすることは、御法度だぜ。ちょうど折良く、ここの奥方が騒ぎを起こしてくれたしな。俺は、ちょいと奉行所の背中を押してやったまでよ」
「確かにな」
いきなりの手入れが不自然だとはいえ、罪状自体は正当だ。
言われてみれば、今まで奉行所の手が入らなかったほうが、不思議なのかもしれない。
「だが、そういうことの元締めであろうそいつが残ってるのぁ、おかしくねぇか」
与一は顎で辰巳を示した。
風弥は面白そうに口角をつり上げると、足元の辰巳の尻を蹴り上げた。
「元締めだと? お前、何を言っているんだ。こいつには、その気(け)はないぞ」
与一はこの状況を切り抜けることを考えていたため、風弥の言葉の意味がわからなかった。
ややあってから、大きく首を傾げる。
そんな与一に、風弥はじれったそうに、言葉を重ねた。
「こいつは、衆道の者じゃないってんだよ。むしろ、そういう行為を、憎んですらいるような奴だぜ」
ぽかんとしている与一に、ずかずかと近づくと、風弥はぐい、と顔を近づけた。
「本物かどうかも、わからねぇのか。ふふん、可愛いねぇ」
風弥の細められた瞳が至近距離に近づいたと思った瞬間、いきなり口を柔らかいもので塞がれた。
己の口を塞いでいるのが、相手の唇だと理解すると同時に、与一は持っていた小太刀を、思い切り横薙ぎに払った。


