「!」

いきなり開けた光景に、与一は目を見張った。
障子を外さんばかりに引き開けたのは、先程まで千秋屋で顔を合わせていた風之介ではないか。
しかも、風之介---風弥の左手は、まるで荷物のようにぐたりとした辰巳の襟元を掴んでいる。

与一がどうすべきか、と悩む暇もなく、風弥のほうから動いた。
与一の潜む植え込み目掛けて、何かを放ったのだ。
与一は地を蹴って、隣の植え込みに飛び込んだ。
しかし思った通り、風弥は立て続けに、与一の軌跡を追って攻撃を仕掛ける。

何度目かの攻撃を、抜いた小太刀で弾いた与一は、その場に立ったまま、静かに風弥に顔を向けた。
与一の立っているのは、風弥の正面の、庭の真ん中。
故意にそこに行くよう、仕掛けたのだろう。
風弥も攻撃の手を止め、与一を見返して、僅かに口角を上げた。

「これはこれは。恋敵と、こんなところで会おうとは」

笑みを浮かべたまま言う風弥の背後、部屋の中を、与一は窺った。

暗い部屋の中は、物が散乱し、乱闘のあったことを物語っている。
だが見た限りでは、血痕は見えない。
辰巳もぐたりとはしているが、おそらく気を失っているだけだろう。

だがそれにしても、家の中が静か過ぎる。
他の奉公人や職人、何より家の者は、どうしたのだろう。

すると風弥が、与一の心を読んだかのように、口を開いた。

「この下駄屋の裏稼業を、摘発したのさ。家の者、職人までしょっ引いたから、家の中は、もぬけの殻だ」

「何だと? そんなこと、どうやって・・・・・・」

そこまで言って、与一は、はっとした。
確か、仲間が与力の中にいた。