下駄屋を横目で見つつ中を窺い、そのまま与一は下駄屋を通り過ぎた。
背後から、先の女将と咲が、見送っている。
とりあえず二人の視界から消えるべく、下駄屋から離れた組紐の店に入った。
すぐに出るわけにもいかず、壁にかかった色とりどりの組紐を見ていた与一は、桜色をした一つの商品を手に取った。
「可愛いだろ。いい人への、贈り物かい?」
店の主人が、声をかける。
与一は、ああ、と答えて、桜の組紐を主人に手渡した。
「一点ものだよ。初めは硬いが、使ううちに柔らかくなって、使いやすさも出てくるさ。細めの絹糸を使ってるから、軽いよ」
愛想良く喋りながら、主人は紐をまとめて与一に差し出した。
「有り難うよ」
紐を受け取り、金を払って組紐屋を出、ぶらぶら歩いて、路地に入る。
そこで与一は、ひょいと空を見上げた。
唇に指を当て、軽く口笛を吹く。
普通の口笛とは違い、鳥の鳴き声のような音だ。
お陰で道行く人は、誰も路地に目は向けない。
しばらくすると、ばさ、という羽音と共に、から公が路地の上空に現れた。
与一は懐から出した懐紙の包みに、さっき買った組紐を巻き付け、落ちないように縛ると、さらにから公の足首辺りに結びつけた。
「痛くないか? これぐらいなら、運べるよな」
肩のから公の顎を撫でてやると、くぁ、と鳴きながら与一の頬に、小さな頭を擦りつける。
背後から、先の女将と咲が、見送っている。
とりあえず二人の視界から消えるべく、下駄屋から離れた組紐の店に入った。
すぐに出るわけにもいかず、壁にかかった色とりどりの組紐を見ていた与一は、桜色をした一つの商品を手に取った。
「可愛いだろ。いい人への、贈り物かい?」
店の主人が、声をかける。
与一は、ああ、と答えて、桜の組紐を主人に手渡した。
「一点ものだよ。初めは硬いが、使ううちに柔らかくなって、使いやすさも出てくるさ。細めの絹糸を使ってるから、軽いよ」
愛想良く喋りながら、主人は紐をまとめて与一に差し出した。
「有り難うよ」
紐を受け取り、金を払って組紐屋を出、ぶらぶら歩いて、路地に入る。
そこで与一は、ひょいと空を見上げた。
唇に指を当て、軽く口笛を吹く。
普通の口笛とは違い、鳥の鳴き声のような音だ。
お陰で道行く人は、誰も路地に目は向けない。
しばらくすると、ばさ、という羽音と共に、から公が路地の上空に現れた。
与一は懐から出した懐紙の包みに、さっき買った組紐を巻き付け、落ちないように縛ると、さらにから公の足首辺りに結びつけた。
「痛くないか? これぐらいなら、運べるよな」
肩のから公の顎を撫でてやると、くぁ、と鳴きながら与一の頬に、小さな頭を擦りつける。


