「はははっ。確かにねぇ。そうそう、お福さんは確かそんな、やんごとなきご身分だったね。けどそれも、昔の話よ。今じゃ衆道者の、下駄屋の奥方さ。北御所様なんて、お福さんのことも、知らないんじゃないかい?」

与一は目を剥いた。
北御所様から御珠を預けられたというのに、北御所様自身は、お福を知らないというのか。
それとも、この女将の思い違いか。
もしくはお蓉の情報が、間違っているのか。

「北御所様とお福さんは、面識無いほど、遠い親戚ってことか」

なぁんだ、というように、与一はさほど興味ない風を装った。

「よくは知らないけどねぇ。何せお福さんは、あたしらみたいな町人とは、口もきかないからさ」

咲が、つんとそっぽを向く。
女将も苦笑いを浮かべた。

「ま、気位ぐらいしか、持ってないからね、あのお人は。変に気位高いままだと、ますます落ちぶれるってのにね。ああ、そういえば、下駄屋への輿入れも、嫌々だったとか。そうだ、それこそ、北御所様のご命令だから、断れなかったんだよ」

「どういうことだよ。北御所様は、お福さんを知らなかったわけじゃないのかい?」

話がややこしくなってきた。
与一は必死で、お蓉の情報と女将の情報を照らし合わせる。