「表向きだけだよ~。なんたって、旦那自らハマッてるっていうから、あそこの奉公人や職人は、まず間違いなくその道の奴だろうさ。よっく見てごらん。何となく、なよっとしてるから。しかも、あそこの恐ろしいところは、客にまで手を出すところさ。気に入った客が来ると、商談と称して奥の座敷に引っ張り込むってことだ。ま、男同士だから、女子(おなご)を連れ込むよりマシかもしれないがねぇ。それなりに、抵抗もきくだろうし」

「そうそう、前は、あからさまに慌てた様子の客が、店から飛び出してきたよ。ありゃあ、どっかの奉公人だな。おおかた奥に引っ張られて、ついていったら何かされそうになったんだろうさ。まだ若い坊主だったけど、可愛い子だったよ。そりゃ、食われるって」

咲も店の前の掃除をしながら、けらけらと笑う。
よく見てるなぁ、と感心しながら、与一は茶を啜った。

「でも、あそこのご新造って、結構な身分って聞いたぜ。何でも、北御所様の、ご親族とか?」

与一の探りに、突然女将が笑い出した。