「ところで兄さん。あんた、下駄屋のお客なのかい?」

女将が、点てた茶を咲に渡しながら、与一に言った。
与一は咲から茶碗を受け取りながら頷く。

「ああ。客っても、たまたまあそこに頼んだだけで、常連じゃねぇけど」

そういえば、あそこは裏が陰間茶屋という噂だ。
昔から下駄屋を見てきた人間は、その辺にも気づいているだろう。

そっちの客だと思われたらたまらない。
与一は故意に、常連ではないということを強調した。

案の定、女将はさっと与一の横に座ると、秘密をばらす悪ガキのように、目を意地悪く輝かせた。

「そうかい。じゃあ、今後気をつけな。兄さんは、なかなか良い男だから、奥に引っ張られるよ」

与一は首を傾げてみせた。
そんな与一の態度に、してやったりとばかりに、女将はぐぐっと声を潜める。

「やっぱり知らないんだね。あそこはね、衆道者のたまり場なんだよ」

「・・・・・・でも、下駄屋だろ?」

すっとぼけてみせる与一に、女将は風が来るぐらいぶんぶんと、顔の前で手を振ると、相変わらず意地の悪い笑みを浮かべたまま、堰を切ったように喋り出した。