「色の薄い着物ってだけだったら、小袖と変わらないんですけどねぇ。娘っぽい着物ってのは、大した威力を持つものなんですね」

「いやらしいわね、よいっちゃんたら。小袖姿なんて、よいっちゃんしか知らないわよ」

「三郎太とお蓉さんの前でも、小袖でしたよ」

「あれは仕方ないでしょ」

どうでもいい会話をしているうちに、下駄屋が見えてきた。
藍が、ひょいと与一を見上げる。

「辰巳のとこに行くの?」

与一は頷き、珍しく苛々したように、足元の石ころを蹴った。

「御珠を見せてもらいます。もう、直球勝負でいきますよ」

「ちょ、よいっちゃん。大丈夫なの?」

藍が慌てて与一の腕を引っ張り、近くの路地に連れ込む。

「正面切って、辰巳に‘御珠を見せろ’って言うわけ? 大丈夫なの?」

「‘御珠’とは言いません。でも、もうちんたらやるのは、こりごりです。御珠を狙う輩も、徐々に下駄屋に近づいているようですし、何より、あの風之介とかいう奴が、藍さんに気づいたかもしれません。ここはもう、強行突破でもしないと、さらに厄介なことになりそうです」

「風之介・・・・・・。風弥か。どっちが本当の名前かしら」

ふぅ、と息をつき、藍は壁に寄りかかった。