「与一様でございますね? 手前、以前千秋屋で応対させていただきました、五平と申します」

「ああ、あの折りは、世話になったな。今日は、どっかにお使いかい?」

言いながら、与一はさりげなく手を振って、から公を飛び立たせた。

「菊助さんより、こなた様をお呼びするよう、申しつけられて参りました」

「三郎太が?」

聞き返した与一に、ああ、そうですね、と五平は短く答えた。

与一は空を旋回しているから公を見上げ、少し考えた。
確かに藍はお蓉と千秋屋に行ったし、から公が持ってきた千秋屋の風呂敷からしても、おそらく今も藍は千秋屋にいるのだろう。

三郎太が呼んでいると言っているが、実際呼んでいるのは藍ではないのか。
自分の予定は言っておいたのに、呼びつけるなど、珍しい。

---まさか、藍さんに限って、何かしくじったってことは、ねぇだろうし---

よくわからないが、とりあえず呼ばれたなら行くべきだろうと、与一は頷いた。

「わかった。行くよ」

五平が、では、と歩き出す後について行こうとした与一は、ふと自分をじっと見る小坊主に気づいた。

---何だ?---

声には出さなかったが、目に出たのだろう。
小坊主が、与一の無言の問いに、びくんと身体を竦ませる。

「あ、あの。あなたは、えっと、あ、彩さんの、お知り合いなのですか?」

顔を強張らせながらも、与一を見上げて言う小坊主を、五平が振り返った。

「これ。立ち入ったことを、聞くものではないよ。申し訳ありません。これは、朔太郎という小者なのですが、まだ若輩者故、いささか気の利かないところがありまして」

五平に引っ張られて頭を下げる朔太郎に、与一はにやりと笑っただけで、何も教えてやらなかった。