「んじゃ、とりあえず早開きの屋台にいるようだから、探してきてくれ。市の川のほうだそうだ」

わかりました、とさがろうとする五平の袖を掴み、朔太郎が三郎太に訴えた。

「ぼ、僕も連れて行ってください! 菊助さん、僕にも探させてください。なかなか見つからなかったときのためにも、二人のほうがいいでしょう?」

「わかったよ。行ってこい」

ため息交じりに言い、三郎太は、しっしっと朔太郎を追い払った。

「さ、じゃあ彩さん。折角だから、お洒落して与一さんを驚かしましょうよ」

「え?」

聞き慣れない言葉に疑問符の浮く藍に、お蓉はいそいそとにじり寄ると、手を取って立たせた。

「わたくしが着るには、もう子供っぽい着物とかがあるのよ。まだ綺麗なんだけど、気に入ってても、もう着られないし、勿体なかったのよ。きっと、彩さんに似合うわ」

「え、でも。お蓉さんの着物なんて、良いものでしょ?」

押し入れの中の桐箪笥を開けて、中を物色しているお蓉に、藍は戸惑ったように声をかけた。
だがお蓉は、楽しそうに笑う。

「いいのよ。どうせもう着られないもの。わたくしには妹もいないし、このまま箪笥の肥やしになるほうが、勿体ないわ。ふふっ。こういうこと、してみたかったのよ。可愛い妹を飾り立てるのって、楽しそうじゃない」

「おお、彩ちゃんの着物、どろどろだったじゃないか。どっちにしろ、あんなに汚れた着物は着て帰れないよ。浴衣で帰すわけにもいかないしな。綺麗に着飾った彩ちゃんを見りゃ、さすがのあいつも、度肝抜かれるだろうな」

にやにやと笑いながら、三郎太が部屋を出て行く。
お蓉は相変わらず楽しそうに、ぽかんとしている藍を飾りだした。