「いやだから。お前は与一を知らねぇだろう。そのお前が使いに立ったって、どうやって与一を探し出すんだ」

五平、と廊下の向こうに呼びかけながら、三郎太が朔太郎に言い聞かすも、朔太郎は引き下がらない。

「朔太郎は、菊助に懐いてるから。お役に立ちたくて、必死なのよ」

お蓉が、藍に耳打ちする。
一刻も早く与一に会いたい藍は、面倒ねぇ、と呟きながら、少し苛々と三郎太と朔太郎を眺めた。
と、朔太郎の横に、もう一人、男が座った。

「何ぞ、ご用ですか?」

「ああ五平。お前、前に俺を訪ねてきた、与一を覚えているか?」

三郎太の問いに、五平と呼ばれた若い男は、少し首を傾げた。

「与一様・・・・・・。ああ」

思い出したように、ぽんと手を打ち、軽く頷いたが、少し不安そうに顔を上げた。

「何となく覚えておりますが、しかとは・・・・・・。おそらく見たらわかるかとは思いますが、いささか心許ないですなぁ」

「大丈夫よ。鴉連れてるはずだから。すぐわかるわ」

待ちきれなくなり、藍が口を挟んだ。
五平がちら、と部屋の中に視線をやり、藍を見て、小さくおおっと呟く。
朔太郎は先程から、ちらちらと藍を見ているが、目が合うと、赤くなってぱっと顔を伏せている。