早口に言う藍を振り返り、うんうんと頷きながら、三郎太は笑った。

「そうだな。彩ちゃんからもらったほうが、与一も嬉しいだろうな」

そういう意味じゃないんだけどな、と思う藍を置き去りに、一人うんうんと頷いている三郎太は、ぱんぱんと手を叩いて、人を呼んだ。
廊下の向こうから、少年が走ってくる。

「はい、お呼びでしょうか」

三郎太の足元に、さっと正座した少年は、先程の朔太郎だ。

「そんな大げさにしなくても、いいと言っているだろう。このお人を、お嬢様のお部屋まで、連れて行って差し上げておくれ。あと、座布団と脇息もな」

「はいっ」

じゃ、とりあえず言われたとおりに作ってくるよ、と小さく囁き、三郎太は廊下を歩いていった。

「さ、こちらへどうぞ」

言われて顔を戻すと、朔太郎と目が合う。
その途端、朔太郎は藍の目にも明らかなほど、耳まで真っ赤になった。

「ああああ・・・・・・、あの、ぼぼ、僕は先程あなた様をお運びしました、さ、朔太郎と申します」

「はい。わかっております。先程は、ありがとうございました」

藍はそっと袖で顔を隠すようにし、さっさと朔太郎を追い払うために、ふぅ、と息をついた。