「あ、彩ちゃん・・・・・・」

呆れられたかもなぁ、と思いながらも、藍は口に出してしまった以上、頼むだけ頼んでみようと、茫然とした感じで呟いた三郎太に言ってみる。

「あのね、恥ずかしいこと、頼んでるとは思うの。おにぎりにするのも、お魚そのままだと崩れちゃうし、運びにくい・・・・・・」

「彩ちゃん! 何て良い子なんだ!」

がしっと藍の肩を掴み、三郎太が叫んだ。

「自分は食べずとも、与一には食べさせたいだなんて・・・・・・。こんなに小さいのに、己の身を削ってまで、与一に尽くしているのかっ」

感動で目を潤ませながら言う三郎太に、藍はがくがくと揺さぶられる。
小柄な藍は、そのあまりの激しさに、酔ってしまいそうだ。

「ああ、あの・・・・・・。そ、そんな大層なことじゃないのよ。た、ただほら、せっかく珍しいものなんだから、ぜひよいっちゃんにも・・・・・・」

「本当に、与一は幸せ者だ! よし! この俺が、彩ちゃんの家に、魚を届けてやるよ」

がくがくと頭を揺さぶられて、うまく喋れない藍を気にもせず、三郎太が宣言するなり踵を返して炊事場に行こうとする。

「あっ! ま、待って! あの、ほんとにそこまでしてくれなくてもいいの! さっきの残りでいいから! でね、あたしがあげたいの!!」