「え、でも彩ちゃん、ほとんど食べてなかったじゃないか」

「うん・・・・・・。よいっちゃんにも、よく言われる。いっぱい食べないと、おっきくなれないって。でもねぇ、ヒトの食べ物は、そんなに食べられないの」

ごめんね、と顔の前で手を合わせる藍を、三郎太は見つめた。

何か、今の言葉に、引っかかりを覚える。
さらりと言われただけに、聞き流してしまうほど小さなものだが。

「でも、勿体ないのに変わりはないわよね。ね、あのあたしの残り、捨てちゃう?」

藍の言葉に、三郎太の感じた引っかかりは、あっけなく思考の片隅に追いやられた。

「ああ。ま、確かに勿体ないけどな。彩ちゃんの姿を見た奴らなら、こぞって食いたがるだろうけど」

悪戯っぽく笑う三郎太に、藍はちょっと躊躇いがちに、口を開いた。

「あのぅ・・・・・・。お願いがあるんだけど。あのお魚、おにぎりにしてくれないかなぁ」

「え? 魚を、握り飯にするのか?」

首を傾げる三郎太に、珍しく恥ずかしそうに、藍が説明する。

「あのね、お魚を、おにぎりの中に入れて欲しいの。ああいうお魚って、京処じゃ珍しいじゃない。よいっちゃんに、食べさせてあげたいなぁって」