「藍(らん)さん。寝るなら自分の布団で・・・・・・」

「隙ありっ!」

少女を引き剥がそうと、与一が腰を浮かせた瞬間、少女は素早く与一の足を払った。
目にも留まらぬ速さだ。

「でっ!」

横にすっ転んだ与一に、布団と共に少女---藍が飛びかかる。

「いえーいっ! さぁ、二度寝しましょーっ!」

嬉しそうな声を上げ、藍は与一を押さえつける。

傍から見たら、恋人同士がじゃれているようにしか見えないだろう。
が、実際はこの小柄な少女に、大の男の与一が、見事なまでに組み伏せられているのだ。

「よいっちゃぁん。あたしに勝てると思うのぉ~?」

与一の上から、藍が顔を寄せて、不敵な笑みを浮かべる。

与一は息をつくと、身体の力を抜いた。
勝てない喧嘩は、しないにこしたことはないのだ。

「ふふ。よいっちゃんは、物分かりが良いから好きよ」

与一が諦めたのを見て取り、藍は、にこりと笑った。
ただ寝ているだけでも可愛らしいが、笑うと本当に天女のようだ。