「ご飯ぐらい、作れるわよぅ。よいっちゃんも、何でも食べてくれるから、苦労しないし」

まあぁ、と、心底感心したように、お蓉が目を丸くする。

「お蓉さんだってさ、好いた人には自分の手料理を作ってあげたいとか、思わない？」

藍の言葉に、お蓉は頬を染めた。
自ら料理を作って三郎太に振る舞うなど、考えもしていなかったのだろう。

「･･････殿方は、好いた女子（おなご）の手料理を、食べてみたいと思うものなのでしょうか」

こればっかりは、藍にもわからない。
身分ある人の考えなどわからないし、藍が与一にご飯を作るのも、母親が子供にご飯を作ってやるようなもので、当たり前のことなのだ。
もっとも母親が子供にご飯を作るという考え自体が、さほど身分の高くない、平民の考えなのだが。

「さぁねぇ。あなたのお父上とか、千秋屋と同等の大店の息子さんとかはわかんないけど、少なくとも三郎太さんは、生まれは低い身分じゃない。よいっちゃんと、同じでしょ？」

「与一さんは、あなたの手料理を喜んでいるということですか？」

これにも藍は首を傾げる。
藍が与一にご飯を作ってあげるのを、当たり前と思っているように、与一も特に、藍の手料理を求めているわけではないと思う。