「おい。危ねぇな。ほら、代わってやる」

藍を受け取ろうと手を伸ばす三郎太だが、朔太郎は何故か頑なに拒否する。

「いいえっ! 大丈夫ですっ!」

「大丈夫っても、お前・・・・・・。お客人を落としちゃあ、しゃれにならねぇぞ」

「いいえ! このかたは、僕がお運びします! 落としたり致しません!」

「あのぅ・・・・・・」

見かねて藍が、おずおずと口を開いた。

「歩けますから、下ろしてくださって、構いません」

落とされては、たまらない。
それに何より、早く朔太郎の腕から逃れたいと思い、藍は身を捩った。

「何を仰います! お気になさらないでくださいっ。大丈夫ですから!」

朔太郎が、ぐっと腕に力を入れ、藍の動きを封じた。
藍を抱く腕に力を込めるものだから、藍は朔太郎の胸に押しつけられる形になる。

ひく、と藍の頬が引き攣った。
朔太郎を突き飛ばして逃げたい衝動を、必死で堪える。

---どこが大丈夫なのさっ! ふらふらのくせに!---

目の前の朔太郎の胸に、かぶりついてやりたいと思いながら、藍はひたすら小さくなって、お蓉の部屋に着くのを待つことにした。