「お嬢様、このような時刻に、このようなところで・・・・・・。このおかたは?」

おろおろとしている朔太郎に、お蓉は藍を抱えるのを手伝ってくれるよう言いながら、短く説明する。

「目が覚めてしまったから、何気なく部屋から出たら、川にこのかたが倒れているのが見えたのよ。追いはぎに襲われたんですって」

「そうだったんですか」

朔太郎は感受性の強い人間らしく、それだけでいたく藍に同情したようだ。
まだ少年のくせに、いきなりがばっと藍の身体を抱き上げた。

「うにゃーーーっ!」

「怖がらなくても大丈夫ですっ! わたくしは、千秋屋の奉公人、朔太郎という者です。こちらのお嬢様は、わたくしの主(あるじ)でありますし、わたくしが安全なところへお連れしますので、ご安心を!」

はきはきと言う朔太郎は、一人熱く、さぁ! とお蓉を促すと、藍を抱き上げたまま、土手を上り始める。
藍はそんな朔太郎の腕の中で、身体を硬くしていた。

やはり、与一以外の男に触れられるのは嫌だ。