「三郎太に入れ知恵してから、早開きの屋台でも探して、飯でも食っておきますよ。その後、辰巳のところに行こうと思います」

藍が、じっと与一を見た。

「よいっちゃんも、朝帰りの言い訳を思いつくようになったのねぇ。おかーさん、悲しいわぁ」

ふぅ、とわざとらしくため息をつく藍は、与一にとっては確かに母親のようなもののはずなのだが、いくら藍が自分で‘お母さん’と言ったところで、実際彼女に育てられた与一でさえ、違和感がありすぎる。

「言い訳っても、藍さんが協力してこその理由ですよ」

「まぁね」

三郎太とお蓉の朝帰りの理由として、与一は藍を使うことにした。

二人で一緒に帰れば、どのような言い訳も通用しない。
ただ別々に帰っただけでも、疑いは残るだろう。

そもそもお嬢さんが朝帰りなど、もってのほかだし、三郎太も奉公人の筆頭だ。
軽々しく朝帰りなどしていては、他の者に示しもつかないし、何より主人の心象も良くない。

ということで、少女の泣き声で起き出したお蓉が、迷子の少女のために少し街を彷徨ってしまう。
一方三郎太は、朝お嬢さんがいないことにいち早く気づき、慌てて街を探し歩いた、ということにした。

与一の考えていることが、まるで手に取るようにわかる藍には、ここまで細かく説明しなくても、それこそ己が考えたことのように理解するのだ。