「待て待て。どっちにしろ、今から千秋屋まで歩いてたら、帰り着く頃にゃ、奉公人は起き出してるだろ」

与一が座ったまま、二人を諭す。
襖に手をかけていた三郎太が、心底困ったような顔で振り返った。

「ま、とりあえず他の客が起き出さないうちに、俺らもここを出るが。お前らは、二人で帰ったらまずいだろ」

言いながら、与一は膝の上の藍の頭を、ぽんと叩いた。
それだけで藍は、しょうがないわねぇ、と呟きながら立ち上がり、部屋の隅に転がっていた笠を取った。

「そういうことなんで、宿を出たとこの路地で待ってて」

笠を被り、藍はお蓉に言う。
どういうことなのかわからず立ち尽くす三郎太とお蓉を、藍はぐいぐいと押して、部屋から出しながら、重ねて言った。

「とりあえず、この宿を出るのは、男女の二人でなきゃ」

「後のことはこっちに任せて、お前らはとにかく、出たとこの路地で待ってろ」

追い払うように二人を出した後、与一は素早く着物を着た。