「言っておきますけどね、お福さんには、了解を得ております。お福さんに、何とか辰巳をぎゃふんと言わせてやりたいと相談を受けたときに、御珠を奪う計画を立てたんです。お福さんたら、手段は問わないとまで言って息巻いていましたから、わたくしがこっそり盗んだほうが、穏便に済ませられると思ったんですよ」

自分の亭主の情人を陥れるのに、手段を問わないとは。
恐ろしいお姫様だ。

確かにそこまで思い詰めている下駄屋のご新造が事を起こすよりも、まだお蓉のほうが、ましな気もする。
二人とも、年端もいかない素人ならではの、稚拙な計画ではあるが。

「なるほどね。しかしあんたも、無謀なお嬢さんだねぇ。盗みに入る以前に、この夜道を下駄屋まで一人で行こうとしてたのかい」

京処の中心部でも、夜は灯りもなく、人の行き来もなくなる。
まして西の市など、京処の外れだ。
夜盗や追いはぎも多い。

「きっと、菊助がついてきてくれると思ってましたから・・・・・・」

赤くなって、お蓉が小さく言う。
聞き慣れない名に、与一の顔には疑問符が浮かぶ。

ふと視線を横に滑らすと、お蓉以上に真っ赤になった三郎太が目に入った。