呆気に取られるお蓉に、藍はべぇっと舌を出す。
もっとも顔はまた、くるまった布団から目だけしか出していないので、舌を出したところで顔を突き出したようにしか見えないのだが。

「ね、よいっちゃん。こんな人たち、さっさと放り出しちゃおうよ。千秋屋の醜聞なんて、それこそあたしたちには関係ないじゃない」

与一に縋り付いて吠える藍を宥めながら、与一はちらりと目の前の二人を見た。

お蓉は顔を真っ赤にして、唇を引き結んで俯いている。
三郎太は、ただ唖然としているだけだったが、さすが奉公人、‘千秋屋の醜聞’という言葉に、素早く反応した。

「ちょ、そ、それは困る。与一には、確かに感謝してるよ」

思わず畳に手をついて、身を乗り出す三郎太に、藍はなおも不満げな目を向ける。

「何よ。よいっちゃんだけ?」

実際部屋に引き入れてくれたのは与一であり、傍から見たら、藍はただ寝ていただけなのだが、部屋に入れるか否かの決定権は、藍にあったのだ。
与一にしかわからない、無言の決定権なので、三郎太にわかろうはずもないのだが。