が、藍は恥ずかしがっているふりをしているわけではないようで、自ら口を開く。

「そっちのお兄さんは、千秋屋の若旦那さんじゃなくて?」

一瞬きょとんとした三郎太が、みるみる耳まで赤くなって、両手をぶんぶんと振る。

「なっ何を言って・・・・・・。おお、俺は、ただの奉公人でさぁ」

「ただの奉公人と、お嬢様が、こんなところに来るわけないじゃない」

ねぇ? と、藍は慌てふためく三郎太の背後のお蓉に目を向ける。
お蓉も困ったように、赤くなって俯いている。

「何か、訳ありなんだろ?」

与一がさりげなく出した助け船に、藍は不満そうに鼻を鳴らしたが、三郎太は渡りに船とばかりに食い付いた。

「そうっ! そうなんだよ! さっきも言ったが、ほんとに俺たちは、ここがそういう宿だって知らずに入ったんだって」

「二人で宿に入るってこと自体が、怪しいのよぅ~」

相変わらず与一の腰にへばりついたまま、藍は目を細めてからかう。
俺らはどうなんだよ、と思いながら、与一は藍の頭を軽く押して、己の背後に押し込んだ。

藍が、うにゃっと言いながら、完全に与一の後ろに追いやられる。

「こいつのことは、気にしねぇでくれ。お子様なんでね、好奇心が強いのさ」

お子様じゃないもん、とぶつぶつ言いながら、藍は後ろの布団に潜り込む。