「あの・・・・・・。そ、そちらのかたは、その・・・・・・、あなたのいい人なのでしょうか」

お蓉が恥ずかしげに、でも興味津々といった瞳で、与一の腰の辺りに目をやる。
藍は相変わらず与一の後ろの低い位置から、大きな目でじっと二人を見ていたが、その場から動くことなく口を開いた。

「そうよ。彩(あや)というの」

---彩ね・・・・・・---

与一は藍の偽名を頭に刻んだ。

視線を上げると、何か言いたそうな三郎太と目が合う。
お蓉がいなければ、存分に突っ込みたいところだろう。
さすがに大店(おおだな)のお嬢さんの前では、そんな下世話な話はできないと思っているらしい。

「何だ。やっぱりお前にも、そういう人がいたんだな」

三郎太は、それだけ言うに留めた。
もっとも顔は、にやにやと笑っているが。

「まぁ、見ての通り、礼儀のなってない奴だがね」

「はは、しょうがないさ。こんな場面だ。すまないな」

藍が与一の後ろに隠れたままで、目だけしか見せないのは、素顔を曝すのに抵抗があるからなのだが、一応ここでは、恥ずかしがっているように見せたほうが自然だ。