「ところで、一体どうしたんだ? 連れ込み宿って知らなかったってことは、いい仲なわけではないってことかい?」

「そそそ、そんなわけ・・・・・・。お、お嬢さんに、失礼だろっ」

「でもこんな夜に、二人で宿に入るたぁ・・・・・・」

にやにやと顎をさすりながら言う与一に、三郎太はますます真っ赤になって声を荒げた。

「違うって! 俺は、お嬢さんをお止めしようとしただけだよ」

「お嬢さん?」

与一の目が、三郎太の背後に動く。
背後のお嬢さんと、目が合う。

「あ、あの。こちらは・・・・・・?」

消え入るような声で、三郎太に問うお嬢さんは、なるほど、それなりに綺麗な顔立ちだ。

「ああ、私の同郷の友人で、与一って者です」

まぁ、と少し安心したように、三郎太の後ろから身体をずらし、軽く頭を下げる。

「千秋屋、菊衛門が娘、お蓉(よう)と申します」

「やぁ、これは。噂通りの別嬪さんだね」

あまり名前を曝すのは良くないかも、と、与一はあえて自分では名乗らず、にこりと笑った。