「騒ぐなよ。とりあえず入れ」

三郎太は、部屋の前でちょっと迷うような素振りを見せた。

それはそうだろう。
事実はどうあれ、この宿の目的と与一の格好は、ぴたりと合っている。
おまけに部屋の中の布団には、女が寝ているのだ。

「何やってるんだ。さっさと襖、閉めてくれよ。いつまでも廊下で言い合ってちゃ、そのうち他の客が起き出すぜ」

与一は藍の横に投げ出された紐を拾い上げ、小袖の前を合わすと、藍を隠すように、彼女の前に腰を下ろした。

三郎太は与一の背後に目をやり、不規則に視線を泳がせた後、諦めたようにお嬢さんを促して部屋に入り、襖を閉めた。

向かい合って座った与一と三郎太は、お互い背後の存在に興味津々だ。
もっともお互いの興味は、全然別のほうに向いているのだが。

藍は相変わらず与一の背後で丸まって寝ているが、千秋屋のお嬢さんは、この状況全てが恥ずかしいようで、三郎太に隠れるように小さくなって座っている。