「お前、こんなところで何やって・・・・・・って、聞くのは野暮か」

与一は小袖の前を合わせながら、にやりと笑った。
が、三郎太は慌てたように、ぶんぶんと手を顔の前で振る。

「ちっ違うっ! そんなつもりで入ったんじゃねぇよ! 第一、ここが連れ込み宿なんて気づかなかったし、お、お嬢さんは、そんなお人じゃねぇっ」

真っ赤になってまくし立てる三郎太よりも、背後で恥ずかしそうにしているお嬢さんを眺めつつ、与一は少し考えた。

狼狽えているだけに、三郎太の声は、でかくなっている。
あまり騒がれるのも都合が悪いし、先の二人の会話も気になる。
上手くいけば、お嬢さん側から情報を引き出せるかもしれない。

与一は、ちら、と自分の背後を見た。
藍は丸まって寝ているため、顔は見えない。
部屋に入れれば、そうはいかないかもしれないが、この魚を逃すのは惜しい。

それに、きっと藍は起きている。
このやり取りを聞いているにも関わらず、何の反応も見せないということは、藍もこの二人から有力情報のニオイを嗅ぎ取っているに違いない。