襖のすぐ前で立ち止まり、男女は声を潜めて言い合っている。
小さな灯りを持った男のほうが、女を宥めているようだ。

男の持つ小さな灯りを頼りに、二人を観察した与一は、女の足元に目を留めた。
赤っぽい鼻緒の、見覚えのある下駄・・・・・・。

与一は視線を上げて、こちらに背を向けている男の後ろ姿をまじまじと見た。

この後ろ姿は・・・・・・。

「三郎太っ?」

思わず与一は、立ち上がりざま襖を開けていた。
男---三郎太は、声も出ないほど驚いた表情で、口を開けたまま振り向いた。

「よっ与一っ?!」

束の間の沈黙。

「きゃっ!」

沈黙を破ったのは、三郎太の後ろにいた女---おそらく千秋屋のお嬢さん---の、小さな悲鳴だった。
お嬢さんは顔を着物の袖で覆い、慌てたように三郎太の後ろに隠れる。

悲鳴の意味---与一はそこで、初めて自分の姿に気づいた。
相変わらず、小袖の前が全開だったのだ。