真夜中、与一は目を覚ました。

夜半をいくらか過ぎた頃だろうか。
辺りはまだ真っ暗で、窓からも光は入ってきていない。

与一は闇の中で、神経を尖らせた。
目を覚ましたのは、空気が変わったからだ。
そっと手を伸ばし、小太刀を掴む。

闇の中に、かすかに足音が聞こえた。
さらに、ひそひそと話す声。

---?---

声は、二人のようだ。
男の声に交じって、女の声も聞こえる。

---ただの客か?---

ここは、連れ込み宿だ。
男と女が密かに入ってきても、おかしいことはない。

だが、声は近づくにつれて、男が何かを必死に訴えている風なのがわかった。

(そのようなこと、いくらお嬢様でも・・・・・・)

(だって、下駄屋にあるのは確実なのよ・・・・・・)

下駄屋、という単語に、与一は反応した。
上に乗っている藍をそっと降ろすと、腹ばいになり、襖を細く開いた。