一刻ほど走り続けて、二人は色町とは逆のほうへ林を抜け、さらに市を通り越して見つけた一軒の宿屋に入った。

「連れ込み宿のようですね」

色町のような、妖しい色の行灯。
入るなり目に飛び込んでくる、大きめに作られた一組の布団に据えられた、二組の枕。

どうりで、宿のわりには人が少ないと思ったわけだ。

「別にいいじゃない。あたしはお布団、一つのほうがいいし」

にこりと笑う藍に、与一の目はいつものように胡乱になる。
これでは嫌でも、藍と寝なければならない。

「あちらさんは、なかなか物騒な組織のようね。口を割りそうになったら、とっとと殺しちゃうなんて」

帯解いて、と言いながら、与一の前でくるりと後ろを向く藍は、先の男目掛けて飛んできた苦無のことを考えながら言った。

「しかも、全く気配を感じなかったわ。もしかしたら、土左衛門の下手人も、あいつかも」

「陰間じゃないってことですか」