「お前の願いは、お嬢さんと一緒になることかい」

与一は苦悶する三郎太に、やや冷めた目を向けた。
気持ち的には冷めているが、内心羨ましくもある。
こういう悩みは、いかにも普通の暮らしに生きている感じがするのだ。

「簡単そうな願いだがねぇ。人の想いだけは、思うようにはいかねぇからな」

呟いた辰巳に、与一は閃いた。

「願いを叶えてくれるっつぅ、何かがありゃあなぁ」

冗談めかした呟きのふりをしつつ、二人の耳に---特に辰巳の耳にしっかりと入るよう、与一は言った。
辰巳の反応を窺う。

「そんなもんがありゃあ、苦労しねぇよ」

吐き捨てるように言う三郎太に、与一は相変わらず冗談めかした響きを残しつつ、重ねて言った。

「けど世間にゃ、そういうものが存在するっていうぜ」