「鳶?」

聞き返した与一に、三郎太は項垂れるように、小さく頷いた。

「何か、反物街の、何とかいう店の旦那の名前が、最近うちの旦那様の耳に入って。そんなでかい店じゃないみてぇだけど、ま、一軒の店の主だしな。布系だったら、うちでもよく使うから、そういう店と縁続きになったら、お互い何かと便利だろ」

しょぼくれる三郎太の話は、与一にはよくわからない。
恋愛どうこうとか、結婚どうこうとかいう話は苦手だ。
自分とは、世界が違うと思ってしまう。

「反物街は、新しい店が多いからな。でも、簡単に商いを始められる分、潰れんのも早いぜ。あそこの店と運命を共にする気なら、相当な大店(おおだな)じゃねぇと危険だってことぐらい、千秋屋の旦那ほどのお人なら、わかるだろう」

さすが、商売人育ちだけあり、辰巳は市の中のことに詳しい。

「そうだよな。そう思うんだが。・・・・・・ああ、一体お嬢さんは、どうお考えなんだろう」