辰巳は昨日とは違う、廊下の奥のほうの部屋に入った。
部屋に着くまでの間、与一はここぞとばかりに屋敷内を眺める。

「なぁんか、今日は人が少ないねぇ」

三郎太の呟きに、辰巳が店のほうを振り返って首を傾げた。

「そうかい? 今日は俺ぁ、店にゃ出てないからよ」

「稼ぎ頭の辰巳が引っ込んでちゃ、商売あがったりってことだな。大したもんだ」

三郎太が、どっかと腰を下ろして笑った。
奉公人が、転がった下駄の台や板きれを片付け、お茶を入れてきます、と言ってさがっていく。

「千秋屋さんと兄さんは、どういう関係なんだい?」

傍らにあった作りかけの下駄を取りながら、辰巳が意味ありげな視線を投げる。
三郎太も、意味ありげに笑いながら、口を開いた。

「聞いてたんじゃないのかい? 幼なじみさ」

与一の肩を叩きながら、三郎太はにやにや笑う。
与一はあえて、二人の笑みの意味に気づかないふりをした。