「でも今度裂けたら、もうぐっちゃぐちゃで、えらいことになるわよ~」

にやりと笑い、藍は自分の胸をぽんと叩いた。

「ま、今日はあたしがいるから、何かあったらすぐに呼ぶがいいわ」

「心強いですね」

傍から見たら、おかしなやりとりだろう。
小さな少女が胸を張り、でかい男が少女を頼る。

が、与一の言葉に、嘘はない。
藍が傍に控えているということは、喧嘩している猫の一方の後ろに、虎が控えているようなものだ。

「じゃ、その辺にいるからね」

と言う藍と、とりあえず別れた与一は、真っ直ぐ下駄屋に入ると、辰巳の姿を探した。
心なしか、店に活気がない。

「辰巳さんは、いるかい?」

店先に辰巳の姿が見えないため、与一は奥にいた奉公人に呼びかけた。

「下駄を作ってもらってるんだがね。そろそろできる頃だと思うんだが」

そっちの客と思われたくなくて、与一は辰巳を指名する理由を口にしながら、店の上がり口に腰を下ろした。