「・・・・・・」

確かに、思ったよりも難しかった。
己に惚れさすということは、己の身に危険が及ぶということだ。
しかも、その危険というのは、慣れた‘命の危機’ではない。
不慣れな‘貞操の危機’なのだ。

「わかったわ。折角よいっちゃんに綺麗にしてもらったのに、また舐められるなんて、冗談じゃないわ」

「・・・・・・俺は何もしてませんが」

「あたしの手、舐めてくれたじゃない」

ひらひらと、藍が手を振る。

「舐めたわけじゃないですよ。軽く口をつけただけです。奴も、そうだったでしょう?」

藍が、思い切り顔をしかめた。

「そんなの、わかんないわよっ! 大体手に口をつけるなんて、信じられないっ!」

そうだろうか、と思いながら、与一は再びきゃんきゃんと吠える藍を見た。

「本当の接吻なら、良かったんですか?」

「ほんとの接吻?」